「もし陽澄湖のカニが美味くないならこの人生、蘇州で暮らす意味があるだろうか」。湯国梨のこの名句は、蘇州陽澄湖産のカニが大閘蟹(上海ガニ)の世界で「トップスター」の地位を占めていることを、ずばりと言い当てている。
蘇州の陽澄湖は海水と淡水が長江と交わったあとに最初にぶつかる湖だ。ここの水域は湖沼が多い。水路が網の目のように分布し、湾曲した河流が幾重にも重なり、湖岸は複雑に曲がりくねっている。このような環境こそ、まさに上海ガニの生息習性にうってつけなのだ。
陽澄湖の湖底には水草が豊かに生い茂っている。水が緩やかかつスムーズに流れ、数多くの小魚やエビを養い、上海ガニに十分な食物を提供している。流水のなかで成長する上海ガニにとって、湖底のほとんどが細砂である陽澄湖の生育環境はうってつけだ。このおかげで殻には光沢が生まれ、緑の背中に白い腹というきれいな見た目になる。また、肉には新鮮な甘みが宿り、生臭さとは無縁である。これが「清水蟹」との呼び名の所以である。
陽澄湖の上海ガニの味は「美味しく肥え、その甘さは飽きない。肉は白玉、ミソは黄金のようだ。味、香り、色の三者の極みであり、その上を行くものはひとつとしてない」と称賛される。
陽澄湖産上海ガニの合格ラインは具体的には次のようなものだ。まず、エラはすべて清潔な白である必要がある。これはきれいな生育環境の証だ。カニミソについて言えば、粘り気のなかにも滑らかさときめ細やかさがあり、淡い甘味が感じられること。スプーンですくって口に含むと、ゆっくりと溶け、美味しさと甘みが少しずつ滲む。そして、たっぷり詰まったカニミソと流れ出るほど脂の乗った肉、なおかつおおぶりな見た目であること。そんなカニをひとくちすすると、新鮮な甘さと柔らかい食感が感じられ、幸福感が自然と沸きあがってくる。
ハサミの肉すら、その肉質はとても細やかかつ柔らかだ。自然な甘みを帯びているので、塩や酢などの調味料をつけなくても、優しい甘さがあり、生臭さを感じない。
カニだけでない。陽澄湖は風景もまさに今の時期が最高だ。陽澄湖には美人腿、蓮花島、陽澄湖半島という3つの島がある。もしお急ぎなら、陽澄湖産上海ガニの核心エリア――蓮花島に直接飛び込んでもいいだろう。
島の家々はどこもカニの商いをしている。歓楽蟹庄、晩芳亭賞湖餐庁、江南蟹閣、春秋蟹庄などの古参の漁家楽(漁家民宿)は、どれもなかなかの高評価だ。湖畔の農家楽に静かに座って湖を眺め、獲れたそばから蒸しあげた上海ガニを楽しんでもいいだろう。
蓮花島は島全体がとても美しい。至るところで田んぼと花畑が広がり、観光用電動カートや遊覧船で湖沿いに巡れば、リラックス感満点だ。
時間に余裕があれば、陽澄湖環島路をサイクリングしてもいいだろう。秋がメタセコイヤの赤で満たされ、水に浮かぶ寺院「重元寺」が水面へと逆さに映る様子は絵のようだ。
陽澄湖半島にある1971倉坊芸術区は文芸好きの必見ポイントだ。もともとは古い穀物庫だったここは、今では農耕文化と現代美学が融合する複合空間へと改造されていて、自分の手で石臼で米を挽いたり稲穂を分けたりして、伝統的農作業のおもしろさを感じることができる。とくに子どもと一緒に体験するのにぴったりだ。
歩き疲れたら、向かいの湖辺書房に行って一休みしよう。ここは赤レンガの壁、螺旋階段、明るいピクチャーウィンドウで、絶好の休憩ポイントになっている。コーヒーを頼んだら、窓に靠れながら遠く湖を眺めよう。何気なく撮っても、どの一枚もムード満点の大作になること間違いなしだ。
周庄古鎮は陽澄湖から車で30分に満たない距離にある。もしよければ足を運んで、水墨画のような古鎮の灯りを眺め、小声で吟唱される評弾を聞いてみよう。カニミソたっぷりのまるまる太った上海ガニをゆっくり片づけたあと、稲穂を眺め、風の歌を聞き、音楽を鑑賞する。これこそ蘇州のもっとも美しい季節の名に恥じない過ごし方だ。